THE PLANETARY REPORT


1996年11・12月号


ガリレオ探査機の果敢な木星大気の測定

リチャード E.ヤング


 待望の論文である。木星の大気を直に探査した探査機ガリレオのデータの総括的な分析結果までには、もう暫く時間が必要である。本文は、ガリレオミッションにおける木星大気の観測班のチーフであるリチャード・ヤング氏のレポートである。筆者はNASAのエイムズ研究センターにおける宇宙科学部門の科学者であり、1988年以来、ガリレオ・ミッションに携わっている。

 惑星ミッションの中でも、木星大気の中でのダイレクト・サンプリングは最も貴重な成果が得られるミッションであるが、反面、最も困難なミッションの一つに数えられる。何故なら、木星に接近すると、探査機に搭載された電子機器が通常のタイプならば、オーバーヒートしてしまうほど激しい熱を放出している放射線帯のような極めて危険な状況に遭遇したり、太陽系で最も危険な大気層に突入してその中で生き抜かなければならないからでもある。1995年12月、探査機ガリレオは、将にこの危険な賭けを敢行した。


何故、木星に探査機を送るのか
 
 ガリレオ・ミッションの目的は、太陽系すべての惑星の起源と進化の解明の糸口となる材料を収集することである。木星の質量は、太陽系のすべての惑星を合わせた質量の2倍以上あり、一千個以上の地球がすっぽりと入ってしまうほど大きく、軽い元素を相当失ってしまった小さい地球型惑星とは異なり、その大きさのおかげで約46億年前の形成時の原始物質を保持している。また木星は、彗星のような小天体との衝突によって生じた小天体の化学特性も合わせ持っている。このように木星は太陽系の活動の過程を知る上で重要な糸口を与えてくれる。

 惑星の形成と進化のモデルを構築するために、我々は主要な微量元素(または痕跡元素)の組成と同位体に関するデータを得る必要があった。地球上と探査機の測定で、木星のヘリウムの存在比(木星が含有しているすべての原子の数に対するヘリウム原子の数の混合比)は、太陽よりも低いが、炭素、窒素、硫黄および酸素の存在比は太陽よりも高いものと予測されていた。ネオン、クリプトンおよびキセノンのような希ガスの存在比はわからなかった。

 また1バール(地球の海面にかかる圧力)以上の圧力下では、木星大気の構造を測定する術もなく、大気の最上層の気温と圧力の不正確なデータがいくつかあるだけであった。従って、測定は探査機による以外他に手立てはなかった。我々が木星大気の構造について知っていたことは、おそらく三層の雲の層で構成されているだろうということぐらいであった。我々は二つの下層の雲は見ることはできなかったが、それ等はスペクトルのデータやシューメーカー・レビー第9彗星が木星に衝突した際の観測により、それぞれ水硫化アンモニウムと水でできているであろうと推測していた。

 我々は、木星と他の巨大外惑星(土星、天王星および海王星)の気象について大きな疑問を持っていた。特に重要なのは、四大ガス状巨星の東から西に吹く帯状の風で生ずる縞模様は、大気層の奥深くまで広がっていくのか、それとも雲の表層レベルで止まるのかどちらなのかということであった。この縞模様は風のエネルギー源であり、同時にそれを引き起こすメカニズムでななかろうかと思われたが、実際には、探査機の測定でしか解明できない疑問であった。


探査機ガリレオ

 探査機ガリレオは、木星の大気に進入するエントリー・プローブ(小型探査機)と軌道を回るオービター(軌道周回機)の二つで構成されていた。1989年10月18日、スペースシャトル・アトランティスに搭載されて打ち上げられた。

 金星の引力を利用して加速する金星スイングバイを1回と地球の引力を利用して加速する地球スイングバイを2回行った後、1995年7月12日にエントリー・プローブとオービターは切り離された。この時点で、プローブとオービターは木星到着まで、距離にして5000マイル、日数にして5ヵ月の彼方にあった。

 プローブとオービターが一旦切り離されてしまうと、地上からプローブと交信はできなくなるし、その飛行軌道を変更することもできない。1995年12月7日、プローブとオービターは木星に到着した。オービターは、1年10ヵ月にわたる木星系を巡る旅に出発し、プローブは太平洋標準時間の午後2時2分、木星の大気に進入していった。

 プローブは、秒速47.4kmで木星大気に突入した。この速度は強力なライフル弾より約50倍の速さである。プローブは木星大気の平面に対して8.5度の傾斜角で突入しなければならなかった。誤って進入角度が1.5度浅くなると、プローブは滑って大気の外に飛び出してしまったであろうし、1.5度角深くなると、プローブは破壊されてしまったであろう。

 大気進入後2分以内に、プローブは秒速0.5kmに減速した。最低速度で飛行中の339kgのプローブが受ける重力は、地球上の228(228重力)倍で、その重量はからのDC−10ジャンボ・ジェット機と同じである。高速進入で生ずるプローブに対する大気の衝撃波は、プローブの先端の約1.5インチ前方になるように設定された。

 衝撃波層の中の温度は、太陽の表面の約2.5倍の1万5000℃に達した。炭素フェノールの熱シールドを付けたプローブは、この極端な高温を切り抜けたが、熱シールドの約2/3は、降下中の熱との摩擦で溶けてしまった。

大赤斑の色


プローブが発見したこと


 プローブが発見したことは、 先ず、木星の主要な構成物質である水素やヘリウム(宇宙で最も豊富な二大元素である)は、太陽形成時とほぼ同じ比率であったこと。木星の質量の75%は水素で24%がヘリウムであったこと(太陽が形成された時のへリウムの質量は約28%であった)。

 これは以前の数値とはかなり違っている。1979年、探査機ボイジャーが木星を接近通過した時のヘリウムの測定値は18%で、ガリレオの数値の24%を大幅に下回っていた。このようにヘリウムの数値の遠隔測定は難しく、大気中で「直に」測定することの優位性が明確に証明された。土星の質量に占めるヘリウムの比率は木星の約1/3であり、木星と土星の進化の過程が異なっていたことを物語っている。

 水素とヘリウム以外の物質の量はほんの僅かであるが、木星の形成とその後の過程で木星が受けた影響をを解明する重要な糸口となる。このような物質の存在比と太陽が含有する同じ物質の存在比とを比較することにより、炭素や酸素のようなより重い元素や、ネオンやキセノンのような稀ガス及び木星の進化を追跡し、内惑星(水星、金星、地球および火星)と比較することができる。

 木星においては、水素に対する炭素と硫黄の存在比が太陽より約2〜3係数が大きいことをガリレオは発見した(窒素の存在比については未だ確定していない。)。酸素(木星は太陽よりも遥かに冷たいために液化している)の量は少なくとも、プローブが進入した大気の地点では少ないようである。これは、我々の予測とは非常に異なっている。我々は、プローブが厚い水の氷でできた雲に遭遇するだろうと考えていた。そして木星の水は地球上と同じように、重要な木星大気の構成物質であると考えていた。しかし驚いたことには、木星の大気は乾燥していたのである。

 木星の炭素や他の重い元素の存在比が太陽に比べて高いことは、彗星や他の小天体が木星に衝突した結果、これ等の物質が大量に蓄積されたことを示している。しかし、小天体の衝突で、なぜ水(そして酸素)が蓄積されなかったのか理解できない。地球の場合は、このような衝突が水をもたらすのに大きな役割を果した。水は海洋に、酸素は大気中の気体の中に存在している。衝突小天体が木星に対して果した役割を理解することは、ガリレオ・ミッションの重要なテーマであり、情報の結果によっては、衝突小天体の役割について新たな考え方をしなければならないかもしれない。

 プローブは、炭素、水素および他の元素を含む有機化合物の調査も行った。勿論、これ等の有機化合物の中には、地球上の生物学的過程で重要な役割を演じているものもある。しかし、プローブが発見した有機化合物の量は極端に少なかった。つまり、木星の有機化合物の含有量は少ないことは、生物学的過程が生じた可能性は非常に低いこと意味する。