THE PLANETARY REPORT


1996年9・10月号

月でこれ以上何ができるか?

 月の探査に関しては、「有人探査で何ができ、何をなすべきか」ということと、「探査はロボットの遠隔操作による無人探査が妥当」という点が検討課題となる。

 月は、無人探査の技術をテストし向上させるためには、好適の場所である。アミューズメント・パークの応用技術やバーチャルリアリティ・ゲームに使われる大胆なアイディアが天文学や科学探査の中に組み込まれてきている。そしてそのためには、信頼性があって、面白くて、更に興奮をかき立てる無人探査の技術が必要とされる。

 最近、日本がこの技術を使った月探査を目標とするとの方針を表明し、ヨーロッパの宇宙機関が同じ内容の月探査を承認し、NASAが月探査のプロスペクター・ミッションを決定したこと、これ等はすべて月の無人探査の利点を喚起する要因となっている。

 しかし、無人探査に入れ込む前に、その経済性を証明する必要がある。月探査計画は、その投資に対して投資効果を保証する科学的整合性か、投資に対する利益還元のいずれかの現実性を持ったものでなければならない。当分の間、このような条件を満たす計画が現れる可能性は低い。
 
 火星が有人探査に相応しいことは明らかである。有人宇宙飛行が目指す先は何処かというと、それはどう考えてみても火星に行き当たることになる。そしてそれは早ければ10年で、遅ければ20〜30年で実現するかもしれない。地球を除けば、火星は過去に生命が存在し、将来生物がそこに定住することが想像でき得ると知られている唯一の天体である。

 火星は深海棚や南極大陸よりも、生息にはもっと敵対的である。しかし、火星は地球以外では最良の目的地であり、人類の将来を見る限りにおいては、そうであり続けるだろう。火星は太陽系の中では酸素や水や暖気を持つユニークな場所である。従って、人類という種族が地球以外に定住する際の命運を決める場所であると、私は信じている。
 
 もし我々人類が次の世紀に火星の定住に失敗するとすれば、それは人類の地球以外の進出に対する否定的なステートメントになることを意味するだろう。そうなる可能性もあり得る。しかし、そうなるわけにはいかない。逆に、もし我々が火星に定住し始めるとすれば、それは人類の生命が将来銀河系に広がっていく先駆けに十分なり得る。
 
 火星進出の準備が整いつつある。アメリカではマーズ・パスフィンダーやマーズ・グローバル・サーベイヤー・ミッションが、ロシアではマーズ96やマーズ・ローバー(火星探査車)が、そして日本のプラネット−Bミッションが間もなく打ち上げられるだろう。

 アメリカでは、火星の打ち上げ窓(2年半毎に訪れる)に、二つの火星ミッションの打ち上げが承認された。これは、地球以外の天体をシステマチックに探査しようという初めてのコミットメントである。ゴア・チェルノムイルジン会談で火星共同探査計画と2005年に予定される火星サンプル・リターン共同計画の合意が成立した。そしてヨーロッパと日本を加え、これを真の国際協力に支えられた計画に発展させる機会が訪れつつある。


有人探査と無人探査の使い分け

 では、この次には何があるのか?その決定が今私に委ねられるとすれば、私は有人・無人の両方の探査を選ぶ。私は、ロバート・ズーブリン氏が「Mars Direct」(小誌1992年9・10月号に掲載)で示した考え方に賛成である。これこそ火星探査を「より速く、より良く、より安く」遂行出来る考察であると私は信じる。この考えで2005年のミッションと2013年までのミッションは確約される。この考えの根幹は、ロボット(の遠隔操作に)よる、科学および工学ミッションの先駆であることを申し添えておく。
 
 しかし、これは私が決めるべきことではないし、そうすることが最良だとは思えない。NASAも認めているように、打ち上げロケットというとてつもない問題が存在する。コストの安い、人間を地球軌道の外に送り出すブースターがないのである。アメリカがサターン5型ロケットを取りやめたのと同じように、ロシアもエナージャ・ロケットを放棄する予定である。

 従って、ロケット問題をどう解決するのか、私には見当がつかない。X−33計画(再使用可能な打ち上げロケットの開発プロジェクト)が、ブースター問題の解決策となるかもしれない。しかし、この計画は緒についたばかりで、すぐにという訳にはいかないだろう。
 
 火星への飛翔には、迂回という問題が待ち受けている。即ち、地球が存在する宇宙空間に群がっている無数の物体、地球近傍物体(NEO)のことである。この問題の処理が太陽系の星間空間飛行の試金石となる。NEOは探査のまたとない対象物体であり、現在NEAR(地球近傍小惑星遭遇)探査機がエロスを目指して飛翔中ある。

 また、小惑星ネレウスのサンプル・リターン・ミッションとなる日本のミューゼスC(Muses-C)計画は、益々世界の関心を呼ぶことになるだろう。特にNEOは、地球と宇宙との関りを知りたいという人類の根本的な欲求と合致する要素を秘めている。NEOの衝突は、過去において地球の進化に大いなる影響をもたらした。未来においても、そうであることは間違いないだろう。
 
 ジェット推研究所のスティーブ・オストロ氏とエリック・ド・ヨング氏は、NEOの重力場とその形状に関する美しいコンピュータ画像を制作した。その映像は楽しくて、NEOを自分で探査してみたくなるほどである。NEOの探査は、ロボットの遠隔操作による探査になると思われるが、火星探査の最良の方法については、私はこれにこだわらないことることにする。
 
 NASA、ロシアおよび他の国の宇宙予算は削減されてきている。恐らく、近視眼的な見方が勢力を占めてきているので、出来る事でも実行しないで済ませてしまうことが起こりうる。それでもなお、宇宙探査は前進して行くと私は確信する。

 ハッブル宇宙望遠鏡、ガリレオ、NEAE、パスファインダー、サーベイヤー、マーズ96、プロスペクター、ルナーA、カッシーニ・ホヘンス、マーズ・トゥギャザー、プラネット−B、新世紀(New Millennium)企画、マーズ・ローバー、サンプル・リターン、スペースシャトル、宇宙ステーション「ミール」など、これ等はすべて人間が火星を目指す手立てとなるのである。

 生命と知性の存在を知ることにより、人間は宇宙の中で「自分探し」をするのである。そして、これは宇宙探査に前向きの考え方をする者にのみ与えられる探求であり、その一人として、私は有人探査が宇宙競争で勝利を収めると考える。