のぞみ



打ち上げ時期:1998年7月4日
軌道上の重量:258.00kg


 火星探査機「のぞみ」は、文部省宇宙科学研究所(ISAS)が打ち上げた初めての惑星探査機(オービター)で、日本が惑星探査に本格的に取り組むさきがけとなるミッションである。「のぞみ」は、打上げ後の12月20日の地球スイングバイにおける加速不足と翌21日の飛翔コースの修正に伴う燃料の使い過ぎのため、火星軌道到着は1999年10月から2004年1月に延期された。探査機「のぞみ」の科学目的は、火星の大気と太陽風の相互作用の測定と火星の磁場の観測である。また、衛星のフォボスとデイモスの撮影も行なう。

 探査機「のぞみ」は火星に至るまでの約7億kmに及ぶ長旅に備えて、小型軽量化と高機能化を徹底的に追求して製作された探査機である。本体260kgを含む探査機の総重量は、1997年7月4日に火星に着陸したNASAの探査機マーズ・パスファインダー(総重量850kg)よりもはるかに軽量である。高機能化の面では、地球からいちいち指示を受けることなく、搭載コンピュータの自律的な判断で姿勢制御や軌道修正を行なうことができる優れた探査機である。また、打ち上げを記念して行われたネーミング(打ち上げ前の名前はPlanet B)募集に27万人を超える人々から応募があったことから、非常に高い注目を浴びたミッションでもある。

 探査機「のぞみ」は打ち上げ後、近地点340km、遠地点40万kmの地球の待機軌道に乗った。1998年8月24日及び12月8日の月スイングバイを行なった後の12月20日、近地点約1000kmで地球スイングバイを行い、火星の遷移軌道に乗ることに成功した。しかし、この時点で加速が不十分であることと翌21日の飛翔コースの修正による推進薬の使い過ぎにより、計画の変更を余儀なくされた。結局、更に4年1ヵ月の間速度を下げて太陽軌道を周回し、2003年12月に火星に到着する。この時点で、「のぞみ」は近地点300km、火星半径の15倍の距離を遠地点とし、黄道面に対する傾斜角度が170度の火星の周回軌道に移る。間もなくマストとアンテナが展開される。探査機は近地点を150kmに下げ、38.50分を周期とする軌道に移り、観測を始める。

探査機「のぞみ」が撮影した地球と月


 探査機「のぞみ」の本体は高さ58cm、周囲1.4mの角が丸みを帯びたプリズム型である。本体の左右には、シリコン製の太陽電池パネル翼が伸び、更にマストと2対の薄いワイヤーアンテナが取り付けられた長さ1mのブームが伸びている。本体の上側にはディッシュ・アンテナが装着され、下側からは推進装置が突き出ている。

 主な科学機器は、撮像カメラ、中立質量分光計、ダスト・カウンター、熱プラズマ分析器、磁力計、イオン質量分光計、高エネルギー粒子実験器、超紫外線撮像カメラ、紫外線スキャナーなど14種類の機器が搭載されている。



右の写真は鹿児島県内之浦の宇宙空間科学観測所から打ち上げられた「のぞみ」

2003年12月9日午前8時30分、宇宙航空開発機構(JAXA)は探査機「のぞみ」の火星周回軌道に投入を断念したと発表した。「のぞみ」は同年6月以来、2002年4月に発生した太陽フレアの影響で故障した電子回路の復旧に全力を尽くしたが、回復の見込みが立たないことが確認されたため、火星への衝突を回避する指令を発信した。「のぞみ」は12月14日、火星の地表から高度894kmまで最接近した後、火星の重力圏を離脱して太陽を回る軌道に乗った。

  電子回路の故障にもかかわらず、ミッション関係者の懸命な努力により、「のぞみ」は2002年12月と2003年6月の地球スイングバイに成功し、ミッションの前途にやや明るい希望の兆しが醸成された。しかし、故障による電気系統の不具合のため主エンジンが噴射せず、火星到着目前で涙をのんだ。かくして、1978年7月4日の打ち上げ以来25年にわたる「のぞみ」の苦闘は結実しなかった。しかし、「のぞみ」の打ち上げは、惑星探査機の設計技術、スイングバイを含む惑星探査機の運用技術、遠距離通信及び軌道計画の柔軟な運用など、今後の宇宙の科学探査の発展のために数々の貴重な実績を収めた。