**********************************************************************        ☆☆☆☆☆ TPS/Jメール ☆☆☆☆☆ ********************************************************************** 今週のもくじ  ・PSコラム     ・ヒューストンレポート (配信済み) ・ホットトピックス (作成者の健康上の理由により当分お休みします)      ********************************************************************** ********************************************************************** ☆☆ PSコラム ☆☆ (第50回) 旅で見つける発見    先日、熊本に所用で旅をする機会がありました。金曜日に用事    が終わったので、次の土曜日の休みを利用して、昔から行って    みたいと思っていた、熊本市の高橋町という有明海に近い小さ    な町を訪れてみました。この町は熊本城の脇を流れる坪井川の    河口に近いところにあり、熊本市内から車で20分ほどで行ける    距離にあります。ここに有名な名所、旧跡があるわけではあり    ません(高橋稲荷という大きな稲荷神社は有名だそうですが)    が、130年前にエドワード・モース(Edward Morse)という    人がこの町へ行って、感激したことが彼の日記に記されていた    のを思い出したからです。      モースはアメリカ人で、生まれ故郷のボストンには見あたらな    い貝類の採集をするために明治10年(1877)に日本に来ま    した。しかし思いがけず、出来たばかりの東京大学の動物学の    教授に採用され、日本に2年ばかり滞在することになります。    この時に縄文式土器をともなう貝塚の発見をして、日本の考古    学の基礎をつくることになりました。読者のなかには、大森貝    塚の発見者としてモースの名前を覚えていらっしゃる方もおら    れるでしょう。なにしろ、歴史の授業で最初にならう縄文時代    土器の発見者ですから、モースの名前はもっと広く知られても    よいでしょう。      このモースが2年の日本滞在のあと、長崎から熊本、鹿児島へ    旅をしたのが明治12年(1879)の5月でした。長崎で貝の    採集をし、そのあと舟で熊本へ着きます。有明湾の遠浅に驚き    ながら、海岸から8キロ(5マイル)も離れた場所で、舟を下り    ます。海岸からさらに10キロ(6マイル:私の旅の結果、そ    んなに遠くはなく、せいぜい5キロほどです)もあるいて、当    時の高橋村に着いたと日記に書かれています。大雨が降ってい    たため、海で貝の採集はできなかったものの、高橋村のゴミ箱    のなかに、緑シャミセンガイ(Lingulidae anatina)という    とても珍しい貝をモースは発見しました。この貝は「貝」とい    うものの、本当は「軟体動物(Mollusca)」に属するものでは    なく、腕足動物(Brachiopoda)という別の属に属する生物で、    そもそもモースはこの腕足動物を採集したいと思って日本に来    たのでしたから、この発見に興奮するのは当然です。このシャ    ミセン貝は5億年も昔に地球上に表れ、それ以降姿形を変える    ことなく現在まで生き続けている生物ですから、まさに生きた    化石とも言えるものです。モースは日記に次のように書いてい    ます。    「ごみ捨て場のひとつの内に、大型な緑色サミセンガイの貝殻    を大多数発見した時、私は如何に驚いたことであろう!この動    物は食料に使用されたので、私は狂人のように走り廻りながら、    どこでこれらの貝を掘り出したのか、話してくれる人を捜し求    めた。まもなく私は、それらは干潮の時掘り出されるので、普    通の食品であることを知った。ここにいるこの動物こそ、これ    ばかりでも、最初私を日本に導く原因をなしたのである。一瞬    間、私はすべてを放擲して、私の全注意心をこの古代の虫に集    中しようかと思った。」      そこで私もこの高橋村に行けば、緑シャミセンガイに会えるか    と、またひょっとすると緑シャミセンガイの料理が食べられる    のではないかと期待していたのです。またモースはこの村の風    景を2枚のスケッチで残していますから、この風景が今も残っ    てはないだろうかとも思ったのが、私の高橋村への訪問の理由    だったのです。モースのスケッチには、有明海にそそぐ細い川    にそった小さな集落が描かれており、川には数メートルの高さ    の棒が何本も突き刺さっている様子が描かれていますが、私は    この棒のように見えるものが何を表しているのか分からないま    まにいたのです。    今回モースの時代から130年たって、高橋村を訪ねたところ、モ    ースのスケッチを偲ばせるような風景はもう今は消えてしまっ    ていることを知りました。川沿いには堤防が築かれて、この小    さな町を歩いても、有明海に注ぐ川沿いの町という風情には遠    いところがあるのを知りました。またさらに残念ながら、緑シ    ャミセンガイはもうほとんどこの周辺では見かけなくなったと    近くの漁師さんに聞きました。残念ですね。有明海はこの20年    ぐらいの内にすっかり変わってしまったとも聞きました。    それでもひとつの発見がありました。モースが描いた川のなか    に林立させた棒は、実は舟を留めておく(もやう)ための竹竿    だったという発見です。高橋町から有明海の海岸のほうへ行っ    てみると、いまでも漁船がこの方式で舟を止めていたのを見て、    やっとモースの描いた棒の正体が分かったのでした。今では高    橋村まで舟が上がってくることは無くなったので、高橋村の川    に竹竿が突き刺さっている風景が消えてしまったわけです。し    かし漁師さんの遠浅の海を利用するアイデアは、今も引き継が    れていたのでした。    読者の皆さんには、「なんだ、そんな小さな発見か」と思われ    るでしょうが、私にとっては長年の疑問を解く発見だったので    す。こんな発見はいくら本を読んでいても見つからないもので    す。現場に行ってはじめて分かる発見というものがあるもので    すね。そんな思いがけない発見があって、私は楽しい旅をする    ことができたのでした。 このコラムに関するご意見・ご感想は下記アドレスまでお寄せ下さい。 pscolumn@planetary.or.jp    ********************************************************************** ☆☆ ヒューストンレポート ☆☆       (配信済み) ********************************************************************** ☆☆ ホットトピックス ☆☆     (当分お休みします) 各記事の詳細は日本惑星協会ホームページでご覧になれます。 http://www.planetary.or.jp/ ********************************************************************** ********************************************************************** ■タイトル  :TPS/Jメール ■発行元   :NPO法人 日本惑星協会          http://www.planetary.or.jp/ ■発行日   :毎週水曜日 ■発行システム:インターネットの本屋さん『まぐまぐ』          http://www.mag2.com/ ■マガジンID:0000022732 「TPS/Jメール」は、上記URLよりいつでも登録/解除可能 です。 ********************************************************************** **********************************************************************