☆☆ YMコラム ☆☆ (NO.349) Mロケットが消える日   来る9月23日、太陽観測衛星SOLAR-Bを打ち上げる日を、M ロケットの消え去る日にしたいとの「提案」が宇宙開発委員会に 提出されたのは、先週の水曜日のことです。Mロケットとともに 歩んできた幾多のエンジニアのみなさん、Mロケットを心から支 援し愛してくださったみなさんには、呆然とした思いがする提案 だったでしょう。   その背景となる状況としては、(1)1機が約70億円というM-Vロ ケットが高すぎるという評価があり、(2)大型・中型・小型の少 なくとも3機体制でこの国の宇宙輸送をやっていきたいとの立川 理事長のプランがあり、(3)小型衛星、超小型衛星が今後需要を 大幅に伸ばすという見込みがあり、そして(4)国際情勢に鑑みて今 後も固体燃料のロケット技術の維持発展が望まれるという判断が あったのだそうです。もっと複雑な背景があるだろうということ は察しがつきますが、それはここでは触れてはならないこと。   (1)については、すでに100億円の開発費を投じればM-Vのコスト を半額以下に抑えられるという青写真が提出されていますが、そ れが可能か否かについての検討は真剣に成されたのか否か、少な くとも私は知りません。数年前に「M-Vの開発は終了した」と の認識が政府から示された時点で、この議論は続けられなくなっ たということなのでしょうか。だから、新しい小型ロケットの開 発費が、M-Vを半額にできる100億円を超える見通しでも一向に 構わないという論理になって行くのでしょう。   (2)の立脚点は基本的には立派なことです。この点については、 大型はH-UAでやる、中型はGX(ギャラクシー・エクスプレ ス)でやる、そこで小型はM-Vをやめた後の小型の新開発ロケ ットでやる、という論理でしょう。GXがその任に耐えるかど うかは、現時点では不明です。まだこの世に存在しないロケット ですから。万国から「世界一」と評判をとっているM-Vロケッ トを捨てて、その代替ないしそれ以上の役割を期待されるはず のロケットがまだ無いというのは、宇宙開発史上にない「英断」 というべきでしょう。 今年の3月、パリで、かなり日本の事情に通じている、ある著名 なロケットエンジニアが言いました──M-Vは最高のペイロー ド比(衛星重量のロケット全備重量に対する比率)を実現したロ ケットだ。それを捨て去るとは日本も気前のいい国だね。これか らどんな後継機を開発しても、M-Vほど世界に胸を張れる優秀 なロケットを完成することはできないだろう。北朝鮮のことがこ れほど問題になっている昨今、M-Vを打ち続けるだけで相当な 抑止力になると思うがね。── (3)については、その大きな需要を宇宙科学のグループだけが必 死で提供する羽目にならないことが大切ですね。本来需要とは客 観的なものであって、供給する本人が必死で需要を創り出すとい うのは漫画ですからね。小型衛星の需要が世間にいっぱいある ──そういうマーケティングがあったのだと信じたいですね。 (4)については、この計画が、政策やマネージメントを職業とし ている人々ではなく、固体燃料ロケットの技術を情熱的に現実に 支えてきた多くのエンジニアの志気を高めることができるかどう かという点を真剣に考えるべきでしょう。そしてこれもマネージ メントが優れているかどうかの判断基準となります。 固体燃料ロケットにとって最悪のストーリーを書いておきましょ う。 これまでの発展としての日本の科学衛星の打上げはしばらくは H-UAまたは外国のロケットでつづける → 小型固体打上げ 機(X)は完成するが小型衛星の需要はそれほど伸びない →  Xは先細りになっていく → H-UAは実用衛星等で忙しくな る → 科学衛星の打上げは外国のロケットでいいじゃないかと いうことになる。 これから先はとても書けません。その筋書きは、宇宙科学だけで なく、日本の宇宙開発の衰退につながっていくからです。私の心 の中には、これに代わる最良のストーリーも、実はあります。そ れは各方面に差しさわりがあるので、ここでは述べません。 先週の土曜日、相模原キャンパスの一般公開がありました。その 熱気は凄まじく、開場の1時間以上も前から150人もの人が行列を 作る有様でした。熊本からわざわざこの一般公開のために駆けつ けた人がいるほど全国的な注目。若いスタッフによって周到に素 敵に準備された数々の実験と演示。7ヘクタールの会場のあちこち で、熱っぽく科学を論じる姿が噴出しました。終わってみれば入 場者は1万9500人。10年後に振り返ったとき、この国民の「宇宙の 知」への熱望が、JAXAの経営陣によって立派に支えられたと いう結果になることを切望するのみです。その見通しは5年後には 出るでしょう。 私は、新しい固体燃料ロケットを開発するグループの健闘を心か ら念じつつ、日本と世界の子どもたちの未来のために、宇宙教育 センターに死力を注ぎます。(YM) このコラムに関するご意見・ご感想は下記アドレスまでお寄せ下さい。 matogawa@planetary.or.jp